民事損害賠償の話(自動車・労災)

》 旧ブログ記事(2010年以前)

本日は賠償責任の話。
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「自動車の保険」
自動車事故が起きた際に、被害者が加害者に対して損害賠償請求しようという場合には、法律上の根拠が必要となります。
一般に、自動車事故の損害賠償で用いられる法律は、「自動車損害賠償保障法(自賠法)」三条や民法709条(不法行為責任)など。損害賠償責任を負うのは、加害者本人だけではありません。本人はもちろん、自動車の保有者(運行供用者)、加害者の使用人(つまり会社)、未成年者の法定監督責任者・・・にまで及ぶこともあります。(民法715条 使用者責任、民法714条 親の監督責任など適用)


自動車の所有者や、その自動車を使用する権利を有するものは運行供用者になります。
会社の従業員が、会社の車で事故を起こした場合も、会社も運行供用者として責任を負います。
鍵をつけっぱなしにして車を停めていたところ、知らない人に盗まれて事故を起こされた場合も、自動車の所有者が運行供用者としての賠償責任を負います。(鍵をかけていたのに強引に盗まれた場合は運行供用者としての責任は負いません)
知人に貸して事故を起こされた場合も、やはり運行供用者責任を負います。
下請け会社の車の起こした事故について元請会社に指揮監督権があると認められる場合は、元請会社も責任を負います。
・・・その他、いろいろなケースがあります。
被害者としては、賠償責任を負うものが複数いる場合は、取りやすいところに請求することが可能です。
加害者本人に賠償金を支払う能力がなかったら、加害者の勤務先や車の所有者などに損害賠償請求がくることも多々あるということです。
では実際に事故が起きた場合、どれぐらいの損害賠償金になるのか?
死亡事故を例にとります。
支払われる損害賠償金の内容としては、
①積極損害(葬儀費用や死亡までの治療費など)+②逸失利益(生きていれば得られたはずの利益)+③慰謝料+④その他(車の物損など)=損害賠償金額
示談交渉が決裂した場合は、最終的には民事裁判で・・・という話になってしまいますが、葬儀費や慰謝料などについて、自賠責保険基準や日弁連交通事故相談センターの基準、各損保会社の支払基準など複数の基準があるので、そういった基準を目安に示談交渉していくことになると思います。
生きていれば得られたはずの逸失利益だけでも、非常に高額です。それに葬儀費用や慰謝料など加算されていくと、被害者にも過失があれば減額されるものの、非常に非常に高額な損害賠償額になることが多いかと思います。1億円を超えることも・・・
<事例>
被害者は42歳サラリーマン男性。深夜に酒によって信号のない道路を横断中に車ではねられ救急車で運ばれたが1週間後に死亡。
年収850万円。相続人は妻と子供2人。
加害者は未成年で制限速度オーバーで走行していた。加害者は未成年だが車は本人名義。しかし親と同居しており車の購入の際にも親の援助を受け、更に車は家族で使っていたこと(ファミリーカーの原則)などがわかり、親も損害賠償支払い責任承認。加害者の運転していた車には対人5000万円の任意保険が付加。
示談の結果、被害者の過失20%で合意。
①積極損害(葬儀や墓の費用150万円、死亡までの治療費50万円)+②消極損害(逸失利益:本人生活費控除率1/3、稼動可能年数67歳までの25年間とし、ライプニッツ方式で計算した結果、8000万円)+③慰謝料(2300万円)=合計1億500万円
=そのうち過失相殺で2割減=8400万円
賠償金支払い内訳・・・強制保険(自賠責)より3000万円、任意保険より5000万円、本人負担より400万円。
<参考・引用文献/ 交通事故の示談交渉マニュアル 弁護士長戸路政行(監修)(出版元・自由国民社) より>
自賠責(強制保険)の金額を超えた部分を、加害者が損保会社の自動車保険(任意保険)に加入している場合は その損害の填補額の範囲内で支払いが行われ、更に任意保険の契約金額の限度額を超える場合は、その部分は加害者負担に。
任意保険に加入していなければ、当然、強制保険を上回る部分の損害賠償から自腹に。
車の物損事故の事例でも、ちょっと興味深い話があるのですが、書いていると長くなるので省略。
なんとなくで車の任意保険に入っている人も多いかと思いますが、民法とかの法律的な根本からの賠償責任について考えていくと、保険設計の際には、よく考えて欲しいかも・・・。
万が一のときに保険金が支払われないとなったら、何のために保険に入っているかわかりませんので、自分で免責事項とかよく確認の上、納得して入っていただくか、信頼おける相談できる人を確保しておいてくださいませ。
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「労災民事訴訟」
車の事故の話で登場してきた、67歳まで生きていたとする逸失利益や慰謝料などの考え方は、車の事故以外でも登場してきます。
例えば事業場での労災事故。
強制適用である労災保険に加入していることにより、労災事故が起こった場合も、労災保険から被災労働者に保険給付が行われることで、労働基準法上の災害補償責任の補償の責は免れることができます。
しかし、それと民事上の問題はまた別。
いろいろと書くよりも、下記のリンク先を読んでもらったほうがと思うので、勝手にリンク。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構のサイトより
労災で負傷した従業員が労災保険給付や会社の災害補償規定に従った支払では足りないとして上積みを請求してきました。どうしたらよいでしょうか?
(62)【労災補償】損害賠償

(65)【労災補償】労災保険給付と損害賠償との調整

(104)外国人労働者
小さい事故とかでしたら、労災からの給付だけで被災労働者も問題にすることなく事が足りるかもしれませんが、大きな事故になった場合は対応を間違うと、訴訟まで発展しかねません・・・
民間保険会社には、傷害補償保険、労災上乗せ補償保険、使用者賠償責任補償保険・・・等々、事業活動を取り巻く様々なリスクから生じる賠償責任に対して備える商品があります。
このへんは、さすがに旦那のほうが詳しいです。
傷害補償保険と労災上乗せ保険、どっちがいいねん?、自動車保険に例えるなら、政府の労災保険が自賠責にあたる強制保険でしょ、そうなると使用者賠償責任保険は自動車の任意保険のようなものか???とか、昨日、うっかり旦那に聞いてしまって、延々と夜遅くまでウンチクを語られてしまいました・・・

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