企業における法律責任と就業規則の話

》 旧ブログ記事(2010年以前)

例えば自動車事故が起きた場合、加害者には法的責任(民事上・刑事上・行政上)と社会的・道徳的責任が生じます。この法的責任は、民事上の問題単独のこともあれば、民事上、刑事上、行政上の3つの責任が同時に発生という場合もあります。
①民事上の責任(慰謝料や損害賠償)
②刑事上の責任(懲役刑など)
③行政上の責任(免許停止や取り消し、反則金など)
④社会的・道徳的責任
この4つの責任は、企業における労務管理の現場でも当てはまります。


「罪刑法定主義」が刑法の基本原則です。
憲法第31条によって、何人も、法律の定める手続きによらなければ刑罰を科されないことが定められています。
法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし・・・ということで、あらかじめ法律で成文化されていなければ、その行為を犯罪として罰してはならないことになっています。
労働基準法や労働契約法など、いろいろな法律が定められていますが、その法律の条文に違反したとしてどうなるかは、罰則規定の有無などにより民事、または刑事責任も生じるかなど判断していくことになります。
労働基準法については、119条および120条に罰金や懲役が規定されており、違反した場合、刑事上の責任も負うことになります。(よほど悪質でないと、実際のところは書類送検されて、刑事的責任を問われていないようですが)
そのため労務管理上、労働基準法に違反しないよう、刑事上の対策は以前から意識が強かったと思います。しかし、最近は民事上の労働トラブルが非常に増加しています。
刑事上の問題は、非常に悪質な法違反と判断され告訴・告発により監督署から検察に送致(書類送検)された場合、最終的には刑事裁判、国(検察)と個人(会社)の争いになります。
それに対して、民事上の問題は最終的には民事裁判になり、まずは訴える側(原告)が訴状を裁判所に提出するところからはじまります。個人(労働者)と個人(会社)の争いになります。
双方の合意があっても変更不可能な強行法規上の問題と違い、民事上の問題は、トラブルが発生した際も、示談による和解など柔軟な解決をはかることが可能な場合もあります。しかしながら、そのようなトラブルが発生しないに越したことがないので、民事上のトラブルの予防として、経営者と労働者のお互いのために、あらかじめ就業規則にトラブル予防の規定を明記しておく企業が増えてきています。
では、どのように自社の就業規則を作成したらよいのでしょう?
次に就業規則を作成する際の3つの視点を述べたいと思います。
視点その①〔刑事・行政対策〕
法律上、クリアしなければいけない強行法規の最低基準で制度を仮設計してみます。その上で、会社の財務状況を勘案し、経営者の従業員に対する思いなど福利厚生規定等に反映し、必要に応じて余裕のもたせた制度設計に修正していきます。
これは、労働基準法など労働法規を熟知していないと、ギリギリの設計は難しいかもしれません。違法、合法の境界線がわからず、うっかりやりすぎると強行法規を破ることになり、刑事上、行政上の問題が発生してしまいます。
会社の財務状況に余裕がないのに無理な設計は会社の経営悪化を招きます。しかし、お金なくても最低限、守らなければならない基準というのがあります。
法律で最低限定められている以上の休暇数や割増賃金、雇用継続制度で再雇用制度でなく定年延長を選択など、よく考えないで設計してしまうと、後から「しまった・・・」と、なってしまうかもしれません。
視点その②〔民事対策〕
就業規則も民事的な「労働契約」として労働者と経営者の双方を拘束してしまうことを認識し、紛争回避および実際に紛争になったときのためのリスク軽減対策の規定を考えて入れていきます。
例えば、実際に裁判になったような労働問題を分析し、万が一裁判になった場合も想定した考え方などを取り入れた規定をトラブルの予防、回避のために定めていきます。
近年、情報が入手しやすくなった等の背景により、とても民事の労働紛争が増加しています。いままで以上に、企業としては対策の必要性が増しています。
視点その③〔組織の仕組みづくり・モチベーションUP対策〕
せっかく就業規則を作成するのだからと、社員の採用ルールなど、会社の運営上必要な業務手順を入れたり、会社の目指すべき企業風土構築のため経営理念などを就業規則に取り入れるケースも多いようです。しかしながら、まずは①と②がしっかりしていることが前提です。(③で独自性を出すのはよいのですが、契約文書(就業規則)に余計なことを書いて紛争を誘発する原因にしないようにだけは気をつけたいところです)
その上で、よりよい会社にしていくために活用を考えてみてはいかがでしょうか?
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以上、読んでいてお気付きかもしれませんが、過去の日記の記事のネタ使い回しです。
ちょっと就業規則を説明するのに印刷して利用するため、過去のブログの記事を修正して再編集したのですが、上記の文章量で、A4・2枚になりました。
よく私のブログ、長文が多いといわれるのですが、なかなか短くまとめるのって難しいですねぇ(汗)

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